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農家しか知らない喜びの正体|田付 勇司さん

農家のこだわり

2025.12.22

表紙

「食」・「農」・「地域」をキーワードに、輝く人物や取り組みを紹介する『食農物語』。

第10話は、田付 勇司さんをご紹介します。

プロフィール

Aim
農家だけが味わえる特別な感覚を大切にしたい
Region
彦根市柳川町
Name
田付 勇司(たづけ・ゆうじ)さん(67)
Activities
◆水稲、野菜、果樹
◆直売所出荷
◆農業体験の受入

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インタビュー

Q自己紹介をお願いします。

A湖岸道路の近くで、水稲とキャベツ・ジャガイモなどの野菜、さらにブドウを栽培しています。

長年、鉄道会社に勤めながら家の田んぼを続けてきましたが、定年を迎えた平成30年頃から、思い切って農業を本格的にはじめました。

ただ、個人規模で水稲だけをしていては収入が伸びにくいため、新しい品目を模索していました。

そのなかでJA営農指導員にすすめられて始めたのが学校給食向けのキャベツです。

さらに将来を見据え、JA東びわこが運営するブドウ栽培のトレーニング施設にも受講生として参加し、ビニールハウスで根域制限という栽培法に挑戦しています。

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Q本格的に農業を始めて、どんなことを感じましたか?

A一番に感じたのは、“とにかく時間が足りない”ということです。

米はもちろん、野菜も植えたらすぐに収穫できるわけではなく、1年に何度も収穫できるものではありません。

その意味で、まだ経験値が足りないなと痛感しています。

ブドウに関しては、まだ樹木の育成期間なので収穫にすら辿り着けていませんからね(笑)。

自分もそれなりの年齢ですし、人生100年時代とはいえ体力には限りがあります。

だからこそ、先延ばしにせず“今できることに全力で向き合う”という意識が大切なんだと感じています。

過去には戻れませんから。前に進むだけです。

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Q農業の楽しさはどんなところにありますか?

Aやっぱり“自分の作ったものを食べた人の笑顔”ですね。

ここ数年はJA東びわこと一緒に、消費者向けの農業体験や子どもたちの食農教育に取り組んでいますが、参加者の喜ぶ顔を見ると「やってよかった」と心から思います。

これまでも親戚や近所付き合いといった“縁故”の中で喜んでもらえるうれしさがありました。

ですが農業体験や食農教育では、そのまま生きていたら出会わなかったであろう人たち——“縁故の外側”の人が私の農産物で喜んでくれる。

そして何なら新たな“縁故”にもつながっていく。

この感覚は、食べ物を生み出す農業をしていなければ決して味わうことのできない特別なものだと思います。

これは一生をかけて大事にしたい、大切なものですね。

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Q農業体験・食農教育に携わるメリット、デメリットを教えてください。

Aメリットは、「みんなから最高の笑顔をもらえること」。

デメリットは……うーん、ないですね(笑)
手間も、労力も、準備も、後片付けも……全部ひっくるめて、子どもたちが畑で目を輝かせた瞬間に吹き飛んでしまうんですよ。

あの笑顔を見ると、「もっと良いものをつくろう」「また次も喜ばせたい」って、気力が一気に湧いてきます。

強いてデメリットを挙げるとすれば、体験を受け入れるまでに細かな調整や段取りが必要なことでしょうか。

畑の整備、スケジュール調整、安全面の確認、当日の動線づくり……意外とやることは多いです。

それから、農家によっては「自分の田んぼや畑を荒らされたくない」という人もいます。

それは生産スタイルや大切にしている価値観の違いなので、どちらが正しいというものでもありません。

ただ、実際問題として、畑に子どもが来て“全く荒れない”なんてことはありませんからね。

だからこそ、事前の対策や声掛けのルールを保護者の皆さんと一緒につくっていく。

お互いにリスペクトを持った関係性で受け入れることが大切だと考えています。

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何といっても、子どもは地域の宝です。

野菜がどうやって育つのかを知る機会は、きっとこれからの人生を豊かにしてくれるはずです。

そして、全力で土と格闘する姿には、大人がハッとさせられるものがあります。

「見て!こんなに獲れた!」

「めっちゃ大きいで!」

そんなふうに目をキラキラさせてかけ寄ってくれるんです。

大人からすれば“ほんの一株”“小ぶりな一本”かもしれないですが、子どもにとっては大発見。

その成長の瞬間に立ち会えていることが、農家として何よりうれしいですね。

たまには小生意気に大人ぶろうとする子もいますが、それもまた可愛いんですよ(笑)。

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Q今後の展望を教えてください

A子どもたちに“ブドウ13品種の食べ比べ”をしてもらうことですね。

収穫は数年先になりますが、「シャインマスカット」だけでなく、赤い粒で皮ごと食べられる品種、ちょっと変わった形のものまで……本当にいろんなブドウを並べられる未来を思い描いています。

一粒ごとに違いを自分の舌で確かめる機会って、なかなかないですからね。

大人だってワクワクするのに、子どもたちだったらなおさら。

「こっちのほうが甘い!」「この形なんか面白い!」なんて、目を輝かせながら比べてくれる姿が目に浮かびます。

それに、キャベツ、ジャガイモ、サツマイモ、ブドウ……畑では季節ごとに主役が入れ替わっていきます。

だからその旬に合わせて、収穫体験をできる限りは受け入れていけたらと思っています。

農産物の生長のリズムに寄り添って、一緒に季節を感じられる体験にしたいですね。

 

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Q「食」と「農」の隙間についてどう思いますか?

Aその隙間こそ、農家が力を合わせて埋めていくべき場所だと思っています。

野菜がどう育ち、どんな想いで作られているのか――。

その背景を知るだけで、いつもの食卓って急にあたたかくなるじゃないですか。

「農」を知ることで「食」が豊かになるって、本当に素晴らしいことだと思います。

一方で、農家側からすると、消費者とつながるのって実はすごく難しいんです。

自分が育てた野菜が、どこで、誰に、どんな表情で食べられているのか。

それを知ることができたら、もっと農業の質は高まっていくし、仕事への誇りも深くなるはずです。

だからこそ、JAがそこを橋渡ししてくれるのは本当にありがたいです。

単に販売やサポートだけじゃなく、「農」と「食」を結ぶ役割に、これからもっと期待しています。

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地域の農家と、農業をしていない住民が、JAを通じて自然につながっていく。

そのつながりが、明日の農業を支える原動力になったり、暮らしの安心感になったりして、

「ここに住んでよかった」と思える地域を、みんなでつくっていく。

「食」と「農」の隙間を埋めるということは、つまりは“地域を育てていく”ということなんだと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

記事を最後までご覧いただき、ありがとうございました。

 

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