都会のど真ん中で試される。農家と挑んだマルシェのリアル――その一歩が、未来を変える
農家のこだわり
活動レポート
期待の若手農家
2026.04.23
「東京で自分の商品が通用するのか、試してみたい」
静かだけれど、
はっきりとした意思を感じる言葉でした。
その一言から始まった今回の挑戦。
舞台は、全国の旬が集まる「JA共済マルシェ」。
場所は、日本の中枢・東京千代田区です。
目次
全国の“旬”と“本気”が集まるマルシェ
JA共済マルシェは、JA共済連が本部ビルで開催する都市型マルシェ。
来場者の多くは、都心に暮らす人や、近隣で働くオフィスワーカーです。
つまりここは、“わざわざ来てもらう場所”ではなく、
日常の中で選ばれるかどうかが問われる場所。
JA東びわこでは、今回も組合員大学「あぐりライフ」の受講生に出展を呼びかけました。
前回の記事はこちら↓
都会のど真ん中で近江米「きらみずき」が即完売!農家が東京のマルシェで見た景色とは?
手を挙げていただいたのは、甲良町金屋のサツマイモ農家・片岡健児さん。
彦根市田附町の柴田明宏さんも出品いただきましたが、繁忙期のため現地参加は叶わず。
それでも、
「自分の目で確かめたい」という片岡さんの一歩をきっかけに、
筆者もJAとして伴走支援を行うことに。
会場に着いた瞬間、空気が変わる
永田町駅から地上に出ると、視界に飛び込んできたのは巨大なビル群。
皇居、国会議事堂、官庁街——
日本の意思決定の中心ともいえる場所です。
その一角にある、今回の会場。
「・・・ここでやるんですね」
見上げながら、ぽつりとつぶやく片岡さん。
地元では見慣れた景色も、ここにはない。
知っている人も、いない。
完全なアウェイの空気の中で、マルシェが始まりました。
行列の先にある、“選ばれるかどうか”の世界
この日、全国から集まった商品は、
選りすぐりの85種類。
販売開始前から行列ができ、入場制限がかかるほどの盛況ぶりでした。
しかし――
扉の向こうに広がっていたのは、ただの賑わいではありません。
一瞬で判断される世界。
足を止めるか。
通り過ぎるか。
それが、ほんの数秒で決まっていきます。
「滋賀県から来ました!」
「東京初出展です!」
声を張りながらも、内心は落ち着きません。
届いているのか。
響いているのか。
手応えを探りながらの販売が続きます。
“目を引く力”が流れを変える
そんな空気を変えたのが、片岡さんの商品でした。
大きくスライスされたおさつチップス。
思わず二度見してしまうほど細い塩けんぴ。
「え、なにこれ?」
足が止まる。
そこから、会話が生まれる。
「滋賀県で作ってるんです」
「甘くて、でも塩が効いてて…」
片岡さんの言葉で、表情が変わる。
そして――手に取られる。
売れていく。次々と。
地元で積み上げてきた商品力とコンセプトが、
この“アウェイ”の場所でもしっかりと通用していました。
その光景に、確かな自信が芽生えます。
“伝わる価値”は、まだ広がる
一方で、もう1つの主役「きらみずき(魚のゆりかご水田米)」。
魚のゆりかご水田とは、琵琶湖周辺の用水路に魚の通り道を設け、
ニゴロブナなどが田んぼで産卵・繁殖できるようにした環境配慮型の取組。
減農薬・減化学肥料で栽培し、魚にも人にも優しい安全なお米を育てます。
加えて「きらみずき」は、令和6年に本格デビューした滋賀県独自の新しい品種。
栽培方法は、オーガニックをはじめ、化学肥料(窒素成分)や殺虫・殺菌剤(化学合成農薬)を使用しない栽培に限定しています。
そんな情熱と手間ひま掛けられたお米が、こんなに安く買えるなんて・・・。
もっと高めの価格で売りたいなと思いながらも、来場客に声を掛けます。
「日本一の湖、琵琶湖のすぐそばで作られた、自然にも人にもやさしいお米です」
「大粒でみずみずしい甘さが特長なので、きっと満足いただけると思います」
一人ひとりに、丁寧に伝えていく。
今回用意していたお米は、来場者の手にしっかりと届き、
約1時間で完売という結果に。
その中で見えてきたのは、もう一歩踏み込める“伸びしろ”でした。
「きらみずき」という品種の魅力や、
「魚のゆりかご水田」に込められた背景。
そうした価値を、さらに伝わりやすい形で届けることができれば、
このお米の魅力はさらに広がっていく――。
そんな手応えを感じる場面でもありました。
品質への評価に加えて、ストーリーまでしっかり届いたとき、
選ばれ方はきっと変わる。
今回の経験は、その可能性を感じさせてくれるものとなりました。
インタビュー|東京で試した、自分の価値
マルシェを終えて、片岡さんに改めて話を伺いました。
Q どうして今回、東京まで足を運ぼうと思ったのですか?
A 私は農家として、農産物を食卓へ届けるところまでが仕事だと考えているんですね。
農産物を生産して終わりではなくて、
実際に食べる人のもとへ、自分の手で届けたい。そういう想いがあります。
そうした関係性を築いていくことが、自分の中では大事なんです。
でも、甲良町でサツマイモを作っている自分が、
都会のオフィス街でお客さんを相手にすることって、なかなかないじゃないですか。
これまで経験したこともなかったですし、
JAさんから話を聞いて、“これはいい機会だな”と思いました。
Q 実際に都会で販売してみていかがでしたか?
A いやー、結構シビアでしたね。
良いと思ってもらえたら、購入するスピードはめっちゃ速いですし、
あまり響かなければ、本当に興味がない感じで過ぎ去られていくので。
結構、心にグサッときますね。
Q 対面販売の難しさも感じましたか?
A そうですね。自分も対面販売のスキルが高いとは思っていないので、
苦労したというのが本音です。
どう伝えるか、という部分は、やっぱり難しかったです。
Q それでも、今回の経験をどう感じていますか?
A こんなにアウェイの地で販売できたことは、
経験値としてはすごく高いものになったと思います。
でも東京で、少なくとも60人以上には
“甲良町の片岡健児”を知ってもらうことができました。
それは単純に、うれしいです。
まだまだこれからも、挑戦は続くって感じですね。
東京で得たこの経験が、次の一歩につながりますから。
片岡さん、ありがとうございました。
おわりに|この一日を、次の一歩へ
記事を最後までご覧いただきありがとうございました。
売れた。
確かな手応えもあった。
そして何より――
「伝わった瞬間に、選ばれる」という実感を得ることができた一日でした。
どれだけ手間ひまをかけて作った農産物も、
その価値が届いたとき、人は迷わず手に取る。
東京という場所は、そのシンプルで本質的な事実を、はっきりと教えてくれます。
目の前を通り過ぎていく人の流れ。
足を止めるかどうかが、ほんの数秒で決まる世界。
その中で、選ばれることの意味と、可能性の大きさを実感しました。
だからこそ、この経験を“単なる一日の出来事”で終わらせるわけにはいきません。
どうすれば、もっと伝わるのか。
どうすれば、価値として認識されるのか。
どうすれば、「選ばれる理由」をつくれるのか。
農家が生み出す価値と、JAが担う役割。
その両方をこれまで以上に結びつけながら、次の挑戦へとつなげていきます。
そして、その先に目指すのは――
地域の消費者が、地元の売り場に並ぶ“全国レベルの農産物”を、誇らしげに手に取る姿。
それは特別な光景ではなく、
これから当たり前にしていきたい未来です。
地元でつくられたものが、全国で評価される。
その価値を、地元の人が一番よく知っている。
そんな循環を、ここから少しずつ形にしていく。
あの日、東京で得た手応えは、次につながる確かな一歩でした。
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