『農福連携』で一人ひとりの存在を喜べる地域共生社会をつくりたい|ハニカムファーマーズカンパニー
地域のお店・専門家
2025.09.12

「食」・「農」・「地域」をキーワードに、輝く人物や
取り組みを紹介する『食農物語』。
第7話は、『農福連携』に取り組むNPO法人「ハニカムファーマーズカンパニー」をご紹介します。
プロフィール
Aim
『農福連携』で一人ひとりの存在を喜べる地域共生社会をつくりたい
Region
彦根市地蔵町
Name
NPO法人ハニカムファーマーズカンパニー
代表理事 矩 規晶(かね・のりあき)さん(69)
Activities
◆ブドウ(彦根市南三ツ谷町)
◆ハーブ(彦根市松原町)
◆イチゴ(多賀町八重練)
ほか

インタビュー
Q自己紹介をお願いします
A NPO法人ハニカムファーマーズカンパニーは、彦根市を拠点に福祉サービスを提供する㈱アイズケアから派生した事業の一つです。
地域に住む障がいを持った方々が農業生産を通じ、自立のための就労機会や生きがいづくりを図ることで、地域福祉に寄与することを目的としています。
具体的には、彦根市南三ツ谷町と松原町でブドウ、多賀町でイチゴを生産し、グループが運営する施設で販売しています。
福祉と農業には切っても切れない密接な関わりがあると考えており、福祉のワンストップサービスを展開する中で、かねてから農業を福祉の現場に取り入れてきました。
自然であふれる事業所を目指し、施設に植えた木々のほとんどは、自分で宝塚にある樹木農園へ購入に走ったものです。
そのために車をトラックタイプに変えました。
私自身も自然に触れることが大好きで、最近は個人のインスタグラムで農作物の生育を更新するのが楽しみの一つになっています。
障がい者福祉に関しては、今から5年ほど前に始めた事業です。
利用者の皆さんが自然に向き合い、いきいきと活動できる場を作ろうと取り組んできました。
そこから、いよいよ農業生産部門の規模が大きくなってきたため、3年前に当法人として独立しました。

Q農業と福祉の関係を教えてください
A『農福連携(のうふくれんけい)』という言葉をご存知でしょうか?
障がいのある人々が農業分野での作業・環境を通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取り組みを指す言葉です。
働く機会と達成感を生み出すだけでなく、担い手不足や高齢化が進む農業分野において、新たな働き手の確保につながる可能性もあります。
簡単に言えば、「農業(自然)」と「福祉(ひと)」が連携することで、多様な役割と場を地域につくり、一人ひとりの存在を喜べる共生社会を目指す取り組みです。
自然とともに働く農業って、太陽の光を浴び、汗をかくじゃないですか。
そして土に触れると、人間って安心するんです。
これら農業がもたらす効果・効能は、何も障がいを持った方に限らず、私たち人間誰もが本来必要なことだと思っています。

ただ、私たちのように事業として利用者の方々に農業へ取り組んでいただくと、どうしても部分的な作業で終わってしまうことが多いです。
例えばブドウの生産で言えば、土づくりや剪定から誘引、芽かき、摘蕾、摘粒など非常に多くの工程が存在します。
それらを部分的に取り組んでもらうのではなく、すべての作業に一貫して携わってもらう。
そうして、これまでは味わうことのできなかった充実感を得るとともに、地域農業への貢献をはじめとした共生社会へ波及していく。
それが、私たちが目指すこれからの『農福連携』です。
Q失敗したエピソードってありますか?
A私たちは基本的にトライ&エラーで進めているので、数え切れないほどありますよ(笑)
中でも一番ショックが大きかったのは、多賀町八重練でビニールハウスを新築して一から始めたイチゴ栽培の初年度ですね。
とにかく栽培期間中の化学農薬・化学肥料不使用にこだわろうと試行錯誤していたのですが、「うどんこ病」がみるみる広がり、あっという間に全滅です。
このシーズンはイチゴを一粒も市場に出すことができませんでした!
そこで2年目は、UV-Bという紫外線を活用した予防を実施したところ、何とか無事に収穫までこぎつけることができたんです。
1年目を棒に振った分、収穫の喜びはひとしおでしたね。
そして今年の冬には3年目のシーズンを迎えます。さてさて、どうなることだか…(笑)

Q今後の展望を教えてください
A目指しているのは、利用者の方々が年間を通して毎日農業に取り組める作業体系を確立することです。
単一の品目を生産するだけでは閑散期ができてしまうため、ブドウやイチゴ、野菜といった複数の品目を上手に組み合わせられるよう工夫しています。
また、今年の秋には彦根市松原町でハーブ栽培が本格始動します。
ハーブは品種が多いので、年間を通して世話を行う必要があります。
とはいえ自然相手の農業なので、パズルのようにぴったりと簡単に組み合わせるのは難しいですが、ベストな品目の組み合わせを確立できれば、パッケージとして全国に普及していけると考えています。

最も望むのは、『農福連携』の取り組みが今よりもっと広がり、一人ひとりの存在を喜べる地域共生社会を実現していくことです。
障がいのある人が、自然とふれあいながら働くことにより、心の豊かさを得て喜びにつながる。
そこに地域の人が関わり、経済が生まれ、人と人が結び合わされていく。
そうして地域の様々な課題を解決し、その価値が語られる市場の創出へ。豊かさの意味を問い直す、持続可能な未来へ。私たちは今、着実に歩みを進めています。
記事を最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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