彦根梨のラプンツェルが見つけた、ひとりじゃない農業。|吉田 恵治さん
農家のこだわり
自慢の特産品
2026.09.24
「食」・「農」・「地域」をキーワードに、
輝く人物や取り組みを紹介する『食農物語』。
第19話は、「彦根梨」のなかでも
「あきづき」を栽培する
吉田 恵治さんをご紹介します。
プロフィール
Aim
彦根梨とともに、地域農業の未来を育てたい
Region
彦根市石寺町
Name
吉田 恵治(よしだ・けいじ)さん(50)
Activities
◆彦根梨
◆「あきづき」栽培
◆彦根梨のラプンツェル
インタビュー
Q 自己紹介をお願いします。
A 特産品「彦根梨」の栽培に携わって、今年で14年目です。
学生時代から自転車競技に打ち込み、競輪選手としても活動していました。
その後に紆余曲折を経て、妻の実家を継ぐ形で農業の道へ入ることになりました。
私は、おかしいと思ったことをそのままにしておけない性格です。
納得できるまで突き詰められる農業は、自分にとても合っている仕事だと感じています。
Q どんな気持ちで「彦根梨」を栽培していますか?
A 以前の私は、「とにかく良い梨を作って、多くの人に笑顔になってもらう」。その一心でした。
日の出とともに梨園へ入り、日が沈むまで作業を続ける。
荒天の日も雨具を着て園に立ち、「限界は死ぬとき」というレジェンドの競輪選手の言葉を自分に言い聞かせ、ひたすら良い梨を追い求めていました。
ところが昨シーズン、その無理が重なり倒れてしまいました。
しばらくの間、治療・療養を続けましたが、後遺症が残りました。
復帰して、以前のように作業ができなくなり、もう農業を辞めようと思っていました。
そんなとき、自分自身を見つめ直すきっかけになる出会いがありました。
Q その出会いとは?
A 指導農業士として農業大学校から受け入れた、
一人の実習生です。
自分の子どもより若く、さらに農作業の際もネイルやカラコン、バッチリメイクの女の子でした。
ですが、今まで受け入れた実習生の中でも特に優秀で、私に多くの気付きを与えてくれたんです。
その実習生へ農業について指導する一方で、私に教えてくれたのは、
推し活やオシャレ、カフェ巡りなど、自分のための時間をしっかり確保して、自分の気持ちを大切にすることでした。
その影響を大いに受け、今は「自分」の優先順位を一番にしています。
やってみたいことや、行ってみたい場所。あるがままに生きています。
この前は、ラテアート教室に行ってきました。
また、後遺症でがんばれない=「がんばらない」のではなく「緩める」という考え方を教えてくれたのも、その実習生でした。
以前は「すべて自分一人で背負い、何とかしなければ」と思っていました。
でも、今はたくさんの人に助けてもらっていることを感謝しながら、
産地として、そして第一次産業として、より良い方向へ進んでいくことが大切だと考えています。
Q 長髪にはこだわりがあるのですか?
A”彦根のアンミカ”に感化されて、
“彦根梨のラプンツェル”を目指しています(笑)
伸ばし始めたきっかけは、いつも髪を切ってくれていた美容師さんが海外へ行ってしまったこと、
コロナ禍になったことなど、いろいろ重なってからですね。
気が付けば、髪はハムストリングスまで伸びました。
トリートメントをしたり、乾かす前にオイルを付けたりと手間はかかります。
でも髪型のおかげで、どこへ行ってもすぐ覚えてもらえるようになりました。
梨園で暮らす「彦根梨のラプンツェル」。
そんなふうに覚えていただけたらうれしいですね。
Q おいしい梨を作る秘訣を教えてください。
A じつは、梨と会話しているんです。
収穫するときは、一玉ずつ「ありがとう」と声をかけます。
枝を整える誘引作業では、「どうしてほしいんや?」と梨の樹に問いかけながら進めます。
幹に触れ、樹全体の調子を感じながら、梨の声を聞いています。
少し不思議に聞こえるかもしれません。
でも、競技の世界でも「第六感」のような感覚を大切にする選手は少なくありません。
私自身、そういう感覚を大切にしており、実際にその効果を感じています。
Q おすすめの品種はありますか?
A どの品種もおすすめですが、もっと多くの方に知っていただきたいのは「あきづき」です。
9月上旬から10月初旬に収穫する品種です。
しかし栽培が難しく、生産量は彦根梨全体の約1%しかありません。
甘さ、酸味、みずみずしさのバランスがとても良く、丸みのある美しい形も魅力です。
一度食べたら、そのおいしさをきっと覚えていただける品種だと思います。
近年は少しずつ生産量も増えてきましたが、梨は苗を植えてから収穫まで5〜6年かかります。
本格的に広がるのは、これからですね。
Q 今後の目標を教えてください。
A これまで培ってきた栽培技術を惜しみなく次の世代へ伝えていくことです。
一人ではできないことも、みんなで力を合わせれば前へ進める。
そう実感してから、その思いはますます強くなりました。
私自身、生育途中の梨の樹を枯らしてしまった経験があります。
会社であれば、失敗の原因を分析し、改善策をまとめ、報告して反省するという流れになることが多いかもしれません。
でも農業は少し違うように思うんです。
「枯れてしまったものは仕方ない。じゃあ次は違う品種を植えてみよう。」
もちろん原因を振り返ることは大切ですが、それ以上に、次へ進む力があります。
私は、そんな農業の前向きさが好きです。
これから農業を担う若い世代が困らないように、もっと解りやすく良い梨を作れる方法や、
自分が積み重ねてきた経験を、惜しみなく伝えていきたいと思っています。
それが、地域の農業をもっと良くしていく力になると信じています。
彦根梨をはじめとする農産物や農業そのものを育てていくためには、生産者の努力だけでは足りません。
「彦根梨、おいしいね」と言ってくださる皆さんにも、この地域の農業を一緒に育てる仲間になっていただけたらうれしいです。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
彦根梨の季節が終わると、
農家の手は、
もう来年の実りへと向かっている。
また、あの甘い季節を迎えるために。
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