父の背中を見てきた自分だからこそ農業を続けたい|上柳豊寿さん
農家のこだわり
期待の若手農家
2025.05.19

「食」・「農」・「地域」をキーワードに、輝く人物や
取り組みを紹介する『食農物語』。
第2話は、愛荘町軽野の
上柳豊寿さんをご紹介します。
プロフィール
Aim
父の背中を見てきた自分だからこそ農業を続けたい
Region
愛荘町軽野
Name
上柳 豊寿(かみやなぎ・とよかず)さん(47)
Activities
◆水稲・小麦・大豆
◆湖南市⇆実家 片道1時間
インタビュー
Q自己紹介をお願いします。
A父の後継者として、昨年から愛荘町軽野で農業を営んでいます。
自宅は湖南市にあるので、片道1時間程度を掛けて実家に通っているところです。
「大変やな」と言われることが多いですが、おかげさまで何とかやってます!
今年中には農業経営の主軸を私に移す予定をしています。
現状は父の経験に頼る部分が大きく、まだまだ教えを乞うばかりです。
しかし時間は待ってくれません。
できるだけ早いうちにわが家の農業経営を私の力で引っ張っていくことができるようがんばりたいと思っています。
自分で言うのも何ですが、私はこの地域の“人”に恵まれています。
地域の諸先輩方は何かと私を気に掛けていただき、農作業の様子を心配してわざわざ見に来ていただくことも多いです。頼れるJA営農指導員もいます。
父が築いてきた関係性があってこそと言ってしまえばそれまでかもしれませんが、これらの関係性を壊さないよう、また更に強固な関係性を築いていけるように取り組んでいきたいです。

Qどんなきっかけで農業を後継したのですか?
A3人兄妹の末っ子で、かつ湖南市で自分の家族と暮らす私が農業後継を決意したと打ち明けた時、父の第一声は「大変やで」でした──
私にとって農業は幼少期から身近にあるもので、自分も「老後は自分たち家族が食べる分だけの田んぼをするのだろうなぁ」と思っていました。
ところが農業情勢は大きく変わり、続々と離農する家が増えていく中、父はひたむきに農業に取り組み続けてきました。
高齢と跡継ぎの不在を理由に農地を誰かに預けてしまうのは簡単かもしれません。
ですが、実家の農業を父の代で終わらせるのは流石にもったいないというのか、終わらせてはいけない気がしたのです。
そのようなきっかけで、湖南市の自宅から通ってでも実家の農業を継ぐ決意をしました。
私が農業の道で生きていくと決意したのには、もう一つ理由があります。
それは、子どもの存在です。
私は父が働く姿を見て育ってきました。収穫の喜びや、時には失敗も…。
良い所も悪い所も見てきたつもりです。
いざ自分の仕事を振り返ると、勤務中の姿を子どもに見せてあげられるわけでもなく、仕事の内容を伝えたところでチンプンカンプンです。
加えて、「お父さんの仕事は楽しいで」と胸を張って言えるのか、結構悩みました。
だったら、私たち人間の「食」を生み出す誇り高い農業に全力で勤しむ姿を見せることで、子どもたちにとっても何か良い影響があるのでは?と考えたのです。
農業の厳しさも、それで家族を養っていく大変さも、すべて覚悟の上です。
誰しも生きていれば、覚悟を持って本気で取り組むべきタイミングが来るものです。
私はこのタイミングだったわけです。

Q農業をする上で大変なことはありますか?
A人や環境に恵まれていることもあり、おかげさまで今のところ何とかやっています。
ですが私たちの地域は、良く言えば水源が豊富で、悪く言えば田んぼから勝手に水が湧いてくるという農家からすると少し困った場所です。
そのため栽培においては排水対策に苦労しており、特に小麦や大豆は湿害に弱いため管理が大変です。
軽野地域では小麦・大豆生産の大半を農事組合法人が担っておられ、個人で小麦・大豆を生産しているのは私の家だけとなっています。
別に仲が悪いとかではないのでご安心ください(笑)
個人だからどうとか、集落営農法人だからどうといった話ではなく、私たちの地域でも小麦・大豆の品質や収量をいかに高めることができるのか、またどうやって持続可能な農業経営に取り組んでいくのか、互いにノウハウを共有して、日々切磋琢磨しているところです。
Q食と農の隙間についてどう思いますか?
A農業について、知らない人が多すぎると思っています。
昔は農繁期になると家族総出で作業をするのがどの家も恒例で、農道には各家庭の軽トラックが溢れていました。
今となってはそんな光景を見ることはできず、小学生で少しだけ農業体験をさせてもらった後は中学、高校、大学や社会人になるにつれて農業に触れる機会が無くなることがほとんどです。
そして消費者として「食」を意識することはありながら、その裏側にある農業のリアルを実感したことのない人が増えているのが現状です。
農業=大変というのは大抵の人が知っている話ですが、その大変さを聞いているだけで実感することをしていないから、ようやく適正価格のボーダーラインに戻ったお米の価格を高いとしか思えないでいます。
何も偉そうなことを言うつもりはなく、私もガソリンの価格が高いと愚痴をこぼす一人です。
高いのは高いですが、その裏側で多くの人が努力されているから、まだその価格を維持できているのでしょうし、ガソリンスタンドに行けばいつでも手に入れることができています。
当たり前のことを当たり前だと思ってしまえば、人間は傲慢になり豊かで幸せな生活は遠のいていくものだと思います。
私はこれから農家として、農業の大変さの中にある喜びや感動を一人でも多くの人に伝え、農業のマイナスイメージを払拭できるような仕事をしたいです。
今後も精一杯がんばってまいりますので、地域の皆さま方におかれましてはどうぞよろしくお願いします。

記事を最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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